赤字会社をどう評価する?P/S と EV/Sales を使う
本記事は当サイト4 段階教育構造を採用:コンセプト / 当サイトの計算方法 / 数字の見方 / 注意事項。
1. コンセプト
問題:赤字会社をどうバリュエーションする?
- PER 計算不能(分母 EPS がマイナスまたは 0)
- DDM / GGM 計算不能(無配当)
- DCF は可能、ただし複数年のキャッシュフロー予測が必要 → 赤字中の会社には主観的すぎる
- PBR は可能、ただし軽資産会社(SaaS、バイオテック)は純資産が低く PBR も歪む
解決策:P/S(株価 / 1 株あたり売上)または EV/Sales(企業価値 / 売上)を使用。
なぜ売上を使う?理由:
- 売上は利益より相対的に安定(利益は一回限りイベントや会計処理で歪む可能性、売上は実取引)
- 売上の操作余地は小さい(収益認識ルールが利益より厳格)
- 成長株により有意義(成長期は売上が急拡大するが未黒字化)
P/S vs EV/Sales の違い
| 指標 | 公式 | 特性 |
|---|---|---|
| P/S | 株価 / 1 株あたり売上 | 最もシンプル、会社間比較で資本構成無視 |
| EV/Sales | (時価総額 + 純有利子負債) / 売上 | 純有利子負債を含む、資本構成横断比較がより公平 |
例:
- A 社:時価総額 100、無借金、売上 50 → P/S=2、EV/S=2
- B 社:時価総額 100、純有利子負債 50、売上 50 → P/S=2、EV/S=3(B が割高)
両社の P/S は同じだが B が実質的に割高(負債 50 を背負う必要があるため)、EV/Sales がこの差を露呈。
2. 当サイトの計算方法
2.1 P/S レンジモデル
高位推計 = targetPSHigh × TTM 1 株あたり売上
低位推計 = targetPSLow × TTM 1 株あたり売上
TTM 1 株あたり売上 = TTM 売上(円)/ 発行済株式数
TTM 売上 = 過去 4 四半期の単四半期売上合計
当サイトは FR_IS_一般_tw_h から直近 8 四半期の累計データを取得、単四半期に逆算後直近 4 四半期を取り、×1000 で「円」単位に変換し shares_outstanding で割って 1 株あたり売上を算出。
2.2 EV/Sales モデル
1. EV = targetMultiple × TTM 売上
2. 株式価値 = EV − 純有利子負債
3. フェアバリュー = 株式価値 / 発行済株式数
純有利子負債 = 総負債 − 期末現金(最新四半期 BS と CF から取得)。
2.3 Consensus ウェイト調整
P/S と EV/Sales 追加後、8 モデル Consensus ウェイト再分配:
キャッシュフローモデル 40%:DCF 25% + DDM 8% + GGM 7%
相対バリュエーション 60%:PER 18% + PBR 12% + EV/EBITDA 12% + EV/Sales 10% + P/S 8%
無効モデル(売上欠損など)は自動除外、残ウェイトを再正規化。
2.4 UI 表示
「バリュエーション」タブに 2 つの新タブ追加:P/S と EV/S
- P/S:双パラメータ(目標高/低倍率)+ 1 株あたり売上、フェアバリューレンジを返す
- EV/Sales:目標倍率 + 売上(億円)+ 純有利子負債 + 発行済株式数、フェアバリュー単一値を返す
両者とも API から TTM 売上データを自動入力。
3. 数字の見方
3.1 P/S 水準表
| P/S | 判読 |
|---|---|
| < 1x | 🟢 相対的に割安(通常は成熟製造業、サイクル底値) |
| 1〜3x | 🟢🟡 成熟業界の典型 |
| 3〜10x | 🟡 成長株、市場リーダー |
| 10〜30x | 🟠 高成長 SaaS / バイオテック |
| > 30x | 🔴 極端な成長期待(CAGR を厳格に検証必須) |
3.2 EV/Sales 水準表
| EV/Sales | 判読 |
|---|---|
| < 1x | 🟢 バリュートラップまたはサイクル底値 |
| 1〜3x | 🟡 成熟業界の典型 |
| 3〜7x | 🟢 競争優位ある成長株 |
| 7〜15x | 🟠 高成長 |
| > 15x | 🔴 極度に攻めた水準(Tesla 2020 ピーク、Snowflake IPO) |
3.3 実戦組合せ判読
高 P/S + 高 EV/Sales:典型的高成長株。この場合は組み合わせ:
- 売上 YoY → 「成長が本物か」確認
- 粗利率 → 「将来黒字化可能か」確認(赤字でも粗利率 70%+ の SaaS は希望あり;粗利率 20% は厳しい)
- Net Dollar Retention / 継続率 → 「顧客が払い続けるか」確認
低 P/S + 高 EV/Sales:この会社は負債過多。EV/Sales を見て初めて「割安だが地雷」の罠を避けられる。
同業内で P/S 相対的に低い:過小評価のリーダーまたはファンダメンタル問題発生の可能性。
- ROE、粗利率分位(P1B.1)と組み合わせて見る
4. 注意事項
⚠️ 低粗利業種に不適
鉄鋼、石化、海運、化学などの低粗利景気循環株:売上 100 億で利益 1 億のみの可能性。同 P/S の 2 社でも粗利率が 5% 違えば収益力は 5 倍違う。
対策:これら業種は PER(景気高値)、**PBR(景気底値)**を使用。
⚠️ 金融業に不適
銀行、保険、証券の「売上」定義は完全に異なる(純金利収入、手数料、保険料)。EV/Sales は金融業に意味なし、これら会社は PBR を推奨。
⚠️ 営業外収入による歪み
大量の営業外収入を持つ持株会社(投資収益、処分益)は「売上」を小さく見せ利益を大きく見せる、P/S が高めに偏る。連結売上または調整後売上を見るべき。
⚠️ 売上成長の持続可能性
高 P/S は「高成長維持可能」の仮定を含意。売上成長が 50% から 10% に急落すれば株価は大幅調整 → いわゆる「成長の罠」。
対策:
- P1B.3(近日公開)同業売上比較と組み合わせ
- 直近四半期だけでなく 3 年売上 CAGR の安定性を確認
⚠️ 当サイトの EV 定義は簡略化
- 純有利子負債 = 総負債 − 期末現金
- 厳密 EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金 + 少数株主持分 − 金融投資
当サイトはシンプルさのため少数株主持分と金融投資を含まない。大部分の会社で影響 < 5%、ただし持株会社では歪む。
⚠️ 台湾株 EBITDA は代理値
当サイトの EBITDA = operating_income(営業利益)、台湾株 IS には独立した減価償却欄がないため。EV/EBITDA は実 EBITDA より低めになる。ただし EV/Sales はこの影響を受けない — 分母が EBITDA でなく売上のため。
延伸閱讀
- 〈DCF とは?トヨタ自動車を例に実演〉
- 〈6 大バリュエーションモデル比較:どれが最適?〉
- 〈PER 25 倍は割高か割安か?ヒストリカル分位と同業分位を見る〉(P0.4)
- 〈EV/EBITDA とは?業種横断比較の決定版〉
試してみる
- 銘柄分析 → バリュエーション を開く、8 タブ中の P/S と EV/S が今回新規
- 比較してみる:トヨタのような安定企業は P/S と EV/Sales の数字どちらも極端にならない
- 高成長 SaaS(米国株対応あれば)またはバイオテックを切り替えて、P/S が伝統製造より明らかに高いか確認
- 頂部の総合目標株価が 6 モデル加重から 8 モデルにアップグレード、ウェイト再分配済
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