TL;DR: リプレイ検証(walk-forward validation)とは、時間を過去のある日まで巻き戻し、その時点で見えていたデータだけで予測をやり直し、後に実際に公表された数字と突き合わせる手法です。ある推計方法が「過去に当たっていたか」を確かめるために使います。
考え方
なぜ検証が必要か
前向きバリュエーションはすべて、推計された一つの数字——今年この会社がどれくらい稼ぐか——の上に乗っています。問題は、推計そのものには精度が添えられていないことです。
きれいに描かれた前向き価格チャートが、何年も 3 割高めに外れ続けている利益予想の上に立っていることもあります。チャートには書かれないので、読み手には分かりません。
リプレイ検証が答えるのはまさにこの点です。この方法は、この会社に対して、過去数年どれだけ当たっていたのか。
「その時点で見えていたデータだけ」とは
ここがリプレイ検証で最も重要で、最も間違えやすいところです。
2023 年の推計を検証するとします。正しい手順は、2023 年半ばまで時間を巻き戻し、その時点で公表済みの月次売上高と決算だけを入力して 2023 年通期 EPS の推計値を出し、2024 年になって公表された実際の数字と比べることです。
誤った手順は、2023 年の結果をすでに含むデータで 2023 年を「推計」することです。それは予測ではなく答えの書き写しで、ルックアヘッド・バイアス(先読みバイアス) と呼ばれます。バックテストで最もよくある不正の原因で、質の悪い方法を驚くほど正確に見せてしまいます。
通常のバックテストとの違い
一般に言うストラテジーのバックテストは「この売買で儲かるか」を測ります。リプレイ検証はその一段前、入力に使う数字そのものが信用できるかを測ります。
両者は重ねられますが、順序は入れ替えられません。入力が信用できなければ、その上に載る売買の結論には議論の土台がありません。
実践編:CTSstock での見方
「個別銘柄分析 › VIP › シナリオ › P/E」の最下部に「リプレイ検証」の表があります。各行が 1 年度です。
| 列 | 意味 |
|---|---|
| 年度 | リプレイした年 |
| 推計 | その時点で入手できたデータだけで算出した通期 EPS |
| 実際 | 後に決算で公表されたその年の実際の EPS |
| 誤差 | (推計 − 実際)÷ 実際、百分率 |
表の読み方
最初に見るべきは誤差の大きさではなく、誤差の安定度です。
- 誤差が長期的にプラスマイナス 1 割前後で振れている → この会社に対して実用に足ります。前向き価格を読むときに 1 割の余裕を見ておきます。
- 誤差が大きく振れる(ある年 +3%、翌年 −40%) → この会社の利益はそもそも予測が難しく、前向き価格は粗い参考値にとどめるべきです。
- 誤差が常に同じ方向に寄る(数年連続で過大) → 系統的な偏りです。誤差が大きいことよりも注目に値します。予測可能であり、自分で補正できるからです。
なぜ台湾市場だけにこの節があるのか
リプレイ検証には「その時点で見えていたもの」を再現できることが必要です。台湾の上場企業は毎月 10 日までに前月の売上高を公表するため、「2023 年 6 月に何が分かっていたか」を正確に復元できます。
米国・日本・韓国・カナダは直近 4 四半期の EPS、香港は年次報告書を使っています。これらの市場には同じ頻度の期中データがなく、無理にリプレイを作れば先読みバイアスの産物にしかなりません。偽物を出すくらいなら出さない方がよいという判断です。
よくある質問
Q:誤差はどこまで小さければ信用できますか?
業種によるため、共通のしきい値はありません。景気循環株(海運、パネル、メモリ)は利益の振れが本来大きく、誤差 3 割でも異常とは言えません。公益事業や通信のような安定型では、誤差が 1 割を超えたら推計方法を疑うべきです。他社と比べるより、その会社自身の履歴と比べる方が意味があります。
Q:過去に当たっていれば今後も当たりますか?
いいえ。リプレイ検証はすでに起きたことを記述するだけです。景気循環の転換点、一過性の営業外損益、買収、為替の急変はいずれも、過去に当たっていた推計を突然外させます。用途は数字に対する信頼度の較正であって、保証ではありません。
Q:2〜3 年分のサンプルで足りますか?
十分ではありませんが、価値はあります。2〜3 年では明らかな系統的偏りは見えても、安定度までは見えません。年数が多く、少なくとも 1 回の景気循環の上下両局面を含むほど、結論は堅くなります。サンプルが少ないうちは、健康診断書ではなく警告灯として扱ってください。
Q:常に過大なら、自分で割り引いてよいですか?
構いませんし、それがこの表の使い道の一つです。ただし 2 点注意が必要です。偏りが特定の期間(たとえばコロナ禍の 2 年)に由来し、長期的な性質ではない場合があること。そして割引が調整するのは利益の数字だけで、バリュエーション倍率の高安レンジ自体は連動しないことです。