Q-Q プロットと Jarque-Bera — リターンは正規分布か?
本記事は当サイト4 段階教育構造を採用:コンセプト / 当サイトの計算方法 / 数字の見方 / 注意事項。
1. コンセプト
多くの金融教科書、リスクモデル、ポートフォリオ理論がリターンを正規分布と仮定:
- マーコウィッツ効率的フロンティア(正規 → 平均 + 分散で記述十分)
- ブラック・ショールズオプション価格付け(正規)
- パラメトリック VaR(mean − 1.645σ)
- 伝統的シャープレシオ(リターン対称仮定)
しかし実証は:株式リターンは正規分布ではない。2 つの明確な特徴:
- 厚い裾(Fat Tails):極端事件(±3σ 超)が正規予想より遥かに多い
- 歪み(Skewness):左に偏り(下落が上昇より激しい)
これを実証検証する 2 つの相補ツール:
| ツール | 本質 | 答え |
|---|---|---|
| Q-Q プロット | 視覚化 | 「点が 45° 線からどれだけ偏離?」 |
| Jarque-Bera | 統計検定 | 「正規仮定棄却の p 値?」 |
2. 当サイトの計算方法
2.1 Q-Q プロット
1. サンプル標準化:(r − mean) / σ(ddof=1)
2. ソート
3. i 番目サンプル(i = 0..n−1)に対し描画位置 p = (i + 0.5) / n
4. 理論分位 = Φ⁻¹(p)(標準ライブラリ statistics.NormalDist)
5. (theoretical, sample) 散布図描画、y = x 45° 参照線重ね
読み方:
- 点が完全に 45° 緑線上 → 完全正規
- 裾の点が線から偏離(特に ±2σ 超)→ 厚い裾
- 左上 / 右下偏離が非対称 → 歪み
- 当サイトは赤マーク:|サンプル分位 − 理論分位| > 0.8 の点
図形をすっきりさせるため、サンプル > 60 時に線形等距離で 60 点にダウンサンプル。
2.2 Jarque-Bera 検定
JB = n/6 × (skewness² + (excess_kurtosis)² / 4)
H₀: サンプルが正規分布に従う
H₁: サンプルが非正規
H₀ 下で JB は漸近的に χ²(df=2) に従う
なぜ df=2?2 つの独立偏離指標を検定するため:skewness、excess kurtosis。
p 値の計算:df=2 の χ² 分布には閉形式解:
p-value = exp(−JB / 2)
scipy 非依存、この公式で直接計算。
判読しきい値:
- α = 0.05(JB 臨界値 = 5.991)
- p ≥ 0.10 →
fail_to_reject(正規とみなせる) - 0.05 ≤ p < 0.10 →
marginal - 0.001 ≤ p < 0.05 →
reject - p < 0.001 →
strong_reject
2.3 データソースとウィンドウ
- 過去 252 取引日のシンプル日次リターン使用
- サンプル < 60 日 →
available: falseを表示(不安定)
2.4 Fisher excess kurtosis(正規 = 0)使用
v2.42 全サイト修正と一致:raw kurtosis(正規=3)使用せず。これで excess_kurt > 0 が直感的に「正規より厚い裾」を意味。
3. 数字の見方
3.1 Q-Q プロットの読み方(最実戦的)
サンプル点分布 意味
─────────────────────────────────────
全部 45° 線上 完全正規(稀)
中段密着、両端上振れ 厚い裾(株式最頻)
中段密着、左端下振れ 左歪み(下落裾特に厚い)
全面偏離 深刻な非正規(レバレッジ ETF など)
当サイトの赤点:|theoretical − sample| > 0.8 の点をマーク、通常は裾。赤点が多く、より遠いほど厚い裾 / 歪みが深刻。
3.2 skewness と excess kurtosis の実務水準
| 指標 | 範囲 | 意味 |
|---|---|---|
| Skewness | −0.5〜+0.5 | ほぼ対称 |
| < −1 | 明確な左歪み(下落裾深刻) | |
| > +1 | 明確な右歪み(上昇裾大、稀) | |
| Excess Kurtosis | < 1 | 正規に近い |
| 1〜5 | 一般銘柄典型 | |
| > 5 | 深刻な厚い裾(小型株、景気循環株崩壊史) |
3.3 意思決定への実務的影響
サンプルが正規を棄却(多数ケース):
- パラメトリック VaR がリスクを過小評価 → ヒストリカルシミュレーション使用(当サイトの方法)
- シャープレシオがリスク完全記述不可 → Sortino と CVaR と組み合わせ
- ポートフォリオ相関は極端時に増加 → P0.2 相関行列は平時には見えない
サンプルが正規に近い(稀):
- シャープ + パラメトリック VaR を信頼可能
- 流動性高い大型株、配当安定の金融株が多い
4. 注意事項
⚠️ 大サンプル JB は過度に敏感
n > 1000 時、サンプルが非常に正規に近くても、JB はほぼ常に棄却。これは統計検定の通病(大サンプル下でわずかな偏離も有意になる)。
対策:
- skewness と excess kurtosis の絶対値を見る、p 値だけ見ない
- skew が ±0.5 内、excess kurt < 1 なら、p < 0.05 でも実務上近似正規とみなせる
当サイトはカード上に skew と excess kurt を開示、判断補助。
⚠️ JB は漸近検定
JB の χ² 近似は n が小さい時不正確(n < 50 など)。当サイトは MIN_SAMPLE_DAYS = 60、大サンプル近似成立を保証。
⚠️ Q-Q プロットの主観性
Q-Q を読むには一定の主観要素:
- 「裾偏離どれくらいで深刻?」標準回答なし
- 当サイトは |Δ| > 0.8 を赤点しきい値として使用、視覚補助のみ、正式検定基準ではない
Q-Q が最強なのは2 サンプル比較(「TSMC vs Hon Hai どちらがより偏離」など)、絶対判断ではない。
⚠️ 極端サンプルには不適
- 一方向変動(上昇のみ、下落なし):Q-Q 裾図形が歪む
- 重大構造断点(M&A、事業変更):サンプルが前後 2 分布混合
このとき JB の棄却 = 「将来も非正規」ではなく、「この履歴が均質でない」を意味。
⚠️ 正規仮定は「間違い」ではなく「制約」
正規モデルはマーコウィッツ / シャープ / B-S の礎石。正規からの偏離 ≠ これら理論が無用、ただ制約を理解すべき:
- 極端事件時に歪む
- 「リスク」測定の保守度不足
- ポートフォリオ最適化が裾事件で崩壊する可能性
これを理解することが「すべての正規モデルを拒否」より重要。
延伸閱讀
- 〈VaR vs CVaR — 本当に最悪 5% で何円損するか〉
- 〈Sortino と下方偏差〉
- 〈Sharpe Ratio:投資効率の測定〉
試してみる
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- Q-Q プロットの裾偏離と赤点数を観察
- skewness / excess kurtosis の実際値と対照
- 異なる銘柄タイプを比較:大型値嵩 vs 小型投機、両者の JB 差通常大
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